相続では、被相続人が持っていた財産上の権利や義務を相続人が引き継ぐのが原則です。
ただ、「亡くなった方が持っていた権利や義務は全部相続される」と考えると少し違います。
中には、本人との結び付きが非常に強く、その人でなければ意味を持たない権利や義務があります。
こうしたものは、本人が亡くなると相続人には承継されないことがあります。

一身専属的な権利義務とは

相続の対象にならないものとして、「一身専属的な権利義務」があります。
言葉だけを見ると難しく感じますが、簡単に言えば、その人自身に特に結び付いた権利や義務です。
例えば、
・使用貸借における借主の地位
・代理における本人、代理人の地位
・委任者、受任者の関係
・組合員の地位
・被用者としての債務
などがあります。
こうした関係は、単にお金や財産だけの問題ではありません。
「この人だから貸した」「この人だから仕事を任せた」という関係が前提になっているものもあります。
その本人が亡くなった後に、相続人だからという理由だけで同じ関係をそのまま続けることにはなじまないわけです。

使用貸借の借主の地位

使用貸借とは、物を無償で借りる契約です。
賃貸借と違い、賃料を支払わずに借りるため、貸主と借主との個人的な関係が強く出やすい契約です。
例えば、「親しい知人だから無償で土地を使わせていた」といった場合です。
こうした契約では、「誰に貸すか」が重要になります。
そのため、借主本人が亡くなった場合、その地位が当然に相続人へ引き継がれるという扱いにはなっていません。
一方で、賃料を支払う借地や借家については扱いが違い、借主の地位が相続されることがあります。
似たように見えても、契約の性質によって結論が変わります。

代理や委任も本人との関係が大きい

代理や委任についても、本人との信頼関係が前提になります。
例えば、ある人に財産管理や一定の事務をお願いしていたとして、その人が亡くなったからといって、その相続人に同じ仕事を当然に任せることにはなりません。
逆に、委任していた本人が亡くなった場合にも、その関係がそのまま相続人に移るものではありません。
相続では、こうした「契約上の地位」がすべて承継されるわけではないため、契約書が見つかった場合には契約の種類を確認する必要があります。

祭祀財産は通常の相続財産とは別扱い

もう一つ、相続の際に間違いやすいのが墓や祭具などです。
これらは祭祀財産と呼ばれ、預貯金や不動産などの一般の相続財産とは別に扱われます。
祭祀に関する権利は、相続人全員が法定相続分に応じて持つというものではありません。
祭祀を主宰する人が承継します。
例えば墓について、兄弟3人が相続人だから3分の1ずつ所有するという考え方をするわけではありません。
誰が先祖をまつり、墓などを管理していくのかという点から承継者を決めます。

誰が祭祀主宰者になるのか

祭祀主宰者については、まず被相続人の指定が優先されます。
被相続人が生前に「今後はこの人に墓を任せる」と指定していれば、その指定がまず問題になります。
指定がない場合は、その地方の慣習によって決めます。
さらに、そのような慣習も明らかでない場合には、家庭裁判所が判断します。
順番としては、
①被相続人の指定
②指定がなければ地方の慣習
③慣習も明らかでなければ家庭裁判所
となります。
ここは、通常の遺産分割とはかなり考え方が違います。

「長男だから決まり」とは限らない

昔から「墓は長男が継ぐもの」という考え方を聞くことがありますが、法律上、長男であるという理由だけで当然に決まるものではありません。
実際には、被相続人が誰を指定していたか、これまで誰が祭祀に関わってきたのか、家族の生活状況はどうだったのかなど、さまざまな事情が関係してきます。
被相続人による指定も、必ず書面でなければならないわけではありません。
事情によっては、明確な言葉がなくても黙示の指定が認められる場合があります。
例えば、被相続人と特に密接な生活関係にあった人が唯一の不動産を受贈していたことや、墓の建立者としてその人の名前が刻まれていたことなどから、被相続人の意思が推認されることがあります。
もちろん、一つの事情だけで決まるわけではありません。
全体の事情を見て判断されます。

遺産分割とは切り離して考える

実際の相続では、預金や不動産の話と、墓の話が同じ場で出てくることがあります。
ただ、法律上の扱いは同じではありません。
「不動産を多くもらう代わりに墓を継ぐ」と家族間で話すこと自体はあると思いますが、祭祀財産そのものは、一般の相続財産として遺産分割するものではありません。
相続では、亡くなった方に関係するものを全部一つにまとめてしまうと分かりにくくなります。
預貯金や不動産などの相続財産、一身専属的な権利義務、祭祀財産。この三つは分けて考えておいた方が整理しやすいでしょう。