
相続が始まってから遺産分割が終わるまで、何か月もかかることがあります。
その間、財産がずっと同じ状態で残っているとは限りません。相続人の一人が預金を引き出していたり、賃貸物件から家賃が入っていたり、遺産分割をする前に不動産を売却していたりすることもあります。
そうなると、「亡くなったときにあった財産」と「実際に遺産分割をするときにある財産」が違ってきます。
遺産分割では、相続開始時の財産だけを確認すれば終わり、というわけではありません。
相続人の一人が預金を使っていた場合
たとえば、父が亡くなった後、遺産分割をする前に長男が父名義の預金300万円を勝手に引き出し、使ってしまったとします。
遺産分割をする時点では、その300万円はもう口座にありません。
だからといって、「もう残っていないから遺産分割とは関係ない」となるわけではありません。
一定の場合には、他の相続人の合意によって、その300万円が遺産分割の時点でも存在するものとして扱うことができます。この場合、お金を使った長男自身の同意がなくても、他の相続人が合意すればそのように扱うことができます。
そして、その300万円は長男がすでに取得した財産として、遺産分割の中で調整することになります。
相続が始まってから時間が経っている場合には、亡くなった日の預金残高を見るだけでなく、その後に入出金がなかったかも確認しておきたいところです。
家賃などの収入や、管理にかかった費用はどうなる?
相続財産の中に賃貸不動産があれば、遺産分割が終わるまでの間にも家賃が入ってきます。
たとえば、父が所有していた賃貸物件から毎月10万円の家賃が入り、遺産分割が半年後にまとまったとすれば、その間に60万円の賃料が発生します。
この賃料は、もともとの不動産そのものとは別の財産として扱われ、原則として各相続人が相続分に応じて取得します。つまり、遺産分割が終わるまで家賃もそのまま待っておかなければならない、ということではありません。
もっとも、相続人全員が「家賃も一緒に分けよう」と合意すれば、遺産分割の中でまとめて処理することもできます。
一方で、相続財産は収入を生むだけではありません。土地の固定資産税、別荘の管理費、賃貸物件の共益費や修繕積立金、ゴルフ会員権の会費、貸金庫の使用料など、相続後も費用がかかるものがあります。
こうした相続開始後の管理費用をどのように負担するかについては、考え方が一つに決まっているわけではありません。
相続財産に関する費用なので遺産から精算するという考え方もあれば、相続開始後に発生したものなので遺産とは別に相続分に応じて負担するという考え方もあります。
実際には、相続人全員で合意できれば、遺産分割の中でまとめて精算することもできます。
遺産分割前に不動産を売ったら、売却代金はどうなる?
相続人が遠方に住んでいて、亡くなった方が一人で暮らしていた家を管理できない、といったこともあります。
そのため、遺産分割を終える前に、相続人全員で話し合って不動産を売却するケースもあります。
この場合、相続開始時に存在していた「不動産」はなくなり、その代わりに売却代金が残ります。こうした、相続財産に代わって得た財産を代償財産といいます。
ここで少し注意したいのは、「相続した不動産を売ったお金だから、そのまま遺産になる」とは限らないことです。
共同相続人全員で遺産分割前に不動産を売却した場合、その不動産は遺産分割の対象から外れ、原則として各相続人がそれぞれの持分に応じて売却代金を取得します。
ただし、相続人全員で「この売却代金も遺産分割の中で一緒に分けよう」と合意することはできます。
たとえば、相続財産に複数の不動産があり、現金がほとんどないような場合には、売却代金を含めて分けることで、全体の取得額を調整しやすくなることもあります。
同じように元の財産がなくなった場合でも、火災などで建物が滅失した場合は少し事情が違います。
火災によって生じた損害賠償請求権や保険金請求権は、相続人が自分たちの意思で財産を売却して得たものではありません。そのため、売却代金とは異なり、遺産分割の対象にはならないと考えられています。
相続開始時の財産だけを見ない
遺産分割をするときは、亡くなった日の預金残高や、その日に所有していた不動産だけを確認すればよいわけではありません。
相続が始まってから遺産分割までの間に、
・預金が引き出されていないか
・不動産を売却していないか
・家賃や配当などの収入が発生していないか
・固定資産税や管理費などの支出がなかったか
といったことも確認しておく必要があります。
特に、相続から遺産分割まで時間が空いている場合には、「相続開始時に何があったか」だけでなく、「その後、その財産がどう動いたか」まで整理しておくことが大切です。
遺産分割の話を始めてから、「そういえば預金を引き出していた」「実は家賃を一人で受け取っていた」と分かると、話がややこしくなることがあります。
先に財産の動きを整理しておけば、その後の遺産分割も進めやすくなります。
